宮沢賢治名作選集6は「やまなし」「雪渡り」「オツベルと象」の三本です。
櫻井孝宏さん 「やまなし」
「やまなし」は、谷川の蟹たちが見ている世界のお話です。小学校6年生の教科書に掲載されていることが多く、話を聞いたことある人は多いのではないでしょうか。
朗読は順番にブースに入って頂いたのですが、櫻井さんは待ち時間もロビーでずっと練習してくださっていたようで、とてもスムーズに収録が進みました。
ゆっくりと柔らかく聞かせてくださる朗読でした。蟹の兄弟や、蟹のお父さんなど、声をそれぞれ変えて読んでくださり、櫻井さん一人で色々な声での会話を聞かせてくださいました。蟹の会話のやりとりは微笑ましくて思わずにっこりと笑顔がこぼれます。
また、宮沢賢治独特の擬音の表現が多く、どぶん、ぼかぼか、かぷかぷ等、意識して読み上げてくださいました。結局正体が解らない「クラムボン」も自然に読み上げてくださり、何か解らないけれど情景が浮かぶような気がしました。
あまり朗読をされないとおっしゃっておりましたが、そんなことを感じ泣くくらい素晴らしい朗読を聞かせてくださいました。櫻井さんの優しい声で柔らかく透明感を持ったこの作品の世界を見事に表現してくださいました。
杉田智和さん「オツベルと象」
幼いころ、宮沢賢治全集を読みこんだとおっしゃっていた杉田さんには「オツベルと象」を朗読して頂きました。オツベルにこき使われる白い象の話です。この作品はとある牛飼いからの目線でのお話しになっています。杉田さんは落ち着いた声でずっしりと読み上げてくださいました。「鶯みたいな声の」象や、オツベルや使用人など杉田さんも様々な声色を使って読み上げてくださいました。
弱っていく象や強欲なオツベル、流れるようにスムーズな朗読でした。
この作品では、象の泣き声「グララアガア」という表現が用いられています。そのシーンを収録前の休憩中に、スタッフルームにノックの音。
「?」と思いドアの方を見ると杉田さんが、
「 『グララアガア』という象の鳴き声?はどんな感じで読めばー…」
とのご質問に。セリフのところにも文のところにもあるので悩んでらしたようです。
「そんな作らず、象の鳴き声のような感じで読めばいんじゃないのかな」という演出家さんからのアドバイスにより、杉田さんなりの象の鳴き声を表現してくださいました。たくさんの象がオツベルに奇襲をかけている様が脳裏に浮かぶようです。
最後は、すこし寂しそうな象をどう受け取るかは聞いて考えてみてください。
宮野真守さん 「雪渡り」
「雪渡り」は宮沢賢治のデビュー作と言われる作品です。
子狐が自分たちの悪評を払しょくするために人間の子供たちを招待し、幻燈を見せたり持て成してくれるお話です。
収録が始まる前、昔の文体で普段の言葉遣いと違い独特なため宮野さんは直前までブース内で一人で練習してらっしゃいました。
子供たちが雪の中で遊んでいると狐が出てきて一緒に歌う、というシーンから始まるこの話を、宮野さんは柔らかく優しい声で読み上げでくださいました。
また、登場人物やセリフも多くドラマ風な物語ですので、女の子や狐などそれぞれで声を変えて読み上げてくださいました。
物語の中に詩がたくさん出てきます。「堅雪かんこ、しみ雪しんこ」の歌は岩手県ではわらべ歌として伝えられているそうです。物語内では歌詞のバリエーションを変えて、何度も歌われていますが、詩の節は宮野さんにつけて頂きました。楽しく歌っている子供たちや狐たちが目に浮かぶようです。また、「キックキックトントンキックキックトントン」などの足踏みの擬音もリズムをつけて読んで下さいました。
優しく温かい時間が流れるようでした。
3作品とも宮沢賢治は生きていたときに発表された数少ない作品です。
3名ともそれぞれの読み聞かせで朗読をしてくださいました。
読んだことがある話も、こういった朗読で聞くとまた違った感じ方が出来ると思います。
是非、一度聞いてみてください。